コンサルタントコラム

【人事管理】キャリア開発支援の行方(1)

私たち一人ひとりは働くことや求職活動を通じてキャリアを開発していきます(意図しているか、いないかは別として)が、目まぐるしく変化する社会の中で、国はどのような方向でキャリア開発支援の具体策を決めているのでしょうか。

 

労働生産性を高める事は、どんな企業にとっても重要課題の一つで、国政も経済力を高めるために「労働生産性向上」に対して様々な施策を打っています。

毎年のように行われる各種労働法規の改正や助成制度の変更、給付制度の変更はそれらの施策によるものです。

これからの人事管理の主要なテーマとなる「社員のキャリア開発支援」を進める上で、国の施策のベースとなっている職業能力開発基本計画から、今後のキャリア開発支援を取り巻く環境がどの様に変化していくのかについて、考えてみましょう。

 

厚生労働省は、今年4月に、2016~2020年の5年間にわたる職業能力開発施策の基本方針を示した「第10次職業能力開発基本計画」を発表しました。

人口減少社会、グローバル化の進展、AI、ビッグデータ解析などの技術進歩を背景に、ビジネス環境や就業環境は変化しており、その中で人々が能力を高め、その能力を存分に発揮できる全員参加の社会と人材の最適配置とを同時に実現し、日本の経済を、量の拡大と質の向上の双方の観点から成長させていこうとするものです。

 

背景には日本の労働生産性の低さが問題として横たわっています。

日本の労働生産性はOECD加盟諸国の中ではイスラエルやアイスランドに次いで22位。

22位の労働生産性で、世界3位の経済大国を成し遂げており、仕事に対して、国民がいかに時間と労力を費やしているかがわかります。

 

※労働生産性3位の米国との比較

150805-1

 

出典:厚生労働省 平成27年労働経済の分析 より

 

このため、今回の10次職業能力開発基本計画は、「生産性向上に向けた人材育成戦略」として位置付けられており、今後のキャリア開発支援の方向性が定められています。

 

10次職業能力開発基本計画】 概要

150805-2

厚生労働省HPより

 

 

計画書の本文を見ると、厚労省では労働生産性を高める上での課題を以下のように整理しています。

  • 幅広い産業で人手不足感がある。
  • 職業能力の開発、向上を必要とする者に対する機会の提供。
  • 我が国の産業は総じてIT投資の水準が低く、IT投資を高める事によって労働生産性を向上させる余地があることが指摘されている。
  • 企業が行う人的投資が主要国と比較して少なく、また、その投資割合も低下傾向にあり、将来の発展の基礎となる人的資本の蓄積がなされていないことへの懸念。
  • 減少局面に入っている労働人口を補うために、ひとり一人の労働者の生産性を高めていくことが重要。
  • 諸外国と比較すると、高齢者の就業意欲の高さがうかがわれるが、高齢者の活躍を進める取り組みが求められる。
  • 女性の活躍を促進する取り組みがまだまだ不十分。
  • 平均勤続年数が長期化する傾向にあり、職業人生を通して能力を十分に発揮できるような環境づくりが重要。
  • 多様化する働き方に対応した環境づくり。
  • 障害者の障害特性やニーズに応じた就職が実現できるよう、一層の環境整備が求められる。
  • 労働者は自己啓発について、時間・費用による制約を問題としており、そうした制約を緩和する取り組みが求められる。
  • 労働者自身が、自分に適切なコースやキャリアを選択できるようになるための支援の重要性。

 

 

これらの課題に対し、生産性向上に向けた人材育成戦略として4つの方向が示されました。

①  生産性向上に向けた人材育成の強化

②  全員参加型の社会の実現加速

③  産業界のニーズや地域の創意工夫を活かした人材育成の推進

④  人材の最適配置を実現するための労働市場インフラの戦略的展開

 

今回は「①生産性向上に向けた人材育成の強化」に対する具体的な施策を見てみましょう。

今後の基本施策の展開

施策の取り組み

○専門実践教育訓練給付制度等におけるIT分野の講座拡充検討、IT分野に関する職業訓練の推進等 労働生産性向上のカギとなるITを活用し、新たな製品やサービスを生み出すIT人材を分厚くする取り組みの強化・加速化。

中長期的なキャリア形成を支援するため、平成26年10月から教育訓練給付金が拡充されました。

一般の教育訓練給付金は経費の20%支給であるのに対し、IT関連の教育訓練給付金は経費の40%が支給されます。

○ 国家資格化されたキャリアコンサルタントの質の保証や専門性向上、セルフ・キャリアドックの導入の推進、教育訓練給付制度の周知・普及、等 平成28年4月からキャリアコンサルタント登録制度(国家資格化)がスタート。
【国家資格化にあたり】
・今後のキャリアコンサルタントの継続的な質保証や行動規範のあり方や専門性向上のあり方、活動・成果などの把握分析の必要性、企業における経営課題とキャリアコンサルタントの関わりなどが検討され、その結果キャリアコンサルタント養成の教育内容や資格取得試験の方法が大きく変わりました。 

2016年度からは、キャリア形成促進助成金(制度導入支援コース)にセルフ・キャリアドック制度(労働者にジョブカードを活用したキャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングを定期的に提供するもの※)が組み込まれ、政府による導入支援が具体化されました。

また平成20年から実施されてきたジョブカードの内容や仕組みも大幅に変更され、個人が自分で作成することができるようになりました。(新ジョブカード)

○ グローバル人材育成等のためのキャリア形成促進助成金・キャリアアップ助成金による訓練機会の確保、教育訓練休暇制度等の導入に取り組む企業への支援、認定職業訓練制度の活用促進等 キャリア形成助成金の重点訓練コースにグローバル人材育成訓練が追加されました。

制度導入コースには教育訓練休暇等制度(教育訓練休暇制度又は教育訓練短時間勤務制度を導入し、適用した場合に助成)が追加されました。

 

また、事業主等の行う職業訓練のうち、教科、訓練期間、設備等について厚生労働省令で定める基準に適合して行われているもので一定の基準に適合したものは都道府県知事の認定を受けることができ、中小企業事業主等が認定職業訓練を行う場合、訓練経費等の一部につき補助金を受けることができるようになりました。

今後も戦略的意味の大きな施策については、その効果性についても検証され、上位目的の達成に向けて細かい改正が行われていくものと思われます。

 

人材育成戦略の②全員参加型の社会の実現加速に向けた職業能力底上げの推進。③産業界のニーズや地域の創意工夫を活かした人材育成の推進。④人材の最適配置を実現するための労働市場インフラの戦略的展開。に関する具体的施策と今後の方向性については、次回コラムに譲ります。

【コンサルタントプロフィール】

阿部 プロフ用PHOTO2 阿部 素子
(株式会社ブレインパートナー 執行役員 マネジメント・コンサルタント)
大分県由布市出身。中小企業の人事や組織強化に関わるマネジメントコンサルタント歴20年。 日本経済を支えている中堅・中小企業に働く人々がイキイキとした日々を送れる事をサポートしたい。よりフェアーな評価と適切なキャリア開発が組織のパフォーマンス向上を引き出すという信念を抱き、1996年より人事評価制度の構築、目標管理の制度設計、運用支援、営業力強化支援を手掛け多くの実績を重ねる。 中堅・中小企業の組織風土に適した人事評価制度を構築し、スムーズな運用をサポート。

 

DATE : 2016/08/05

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