コンサルタントコラム

【人事管理】メンタル疾患の社員に受診命令ができるか

社員が勤務の状況がよくなく、うつ病などのメンタル疾患にかかっている疑いが見られた場合、上司や人事部は専門医を受診するように命令ができるのでしょうか。そして、「○○クリニックの〇〇医師に受診すること」というように受診する医師を指定できるでしょうか。


1.就業規則に基づく合理的な命令であるかどうか

例えばこんな社員のケースではどうでしょうか。遅刻や業務のミスが続き、周囲の社員ともトラブルが続いて、健康状態の悪化がみてとれて、面談をしてみると「考えがまとまらず、時には消えてしまいたいと思う。」と言うなど、精神疾患が疑われるときがあります。
上司等が、部下がこのまま仕事を続けることが本人にとって好ましくないと思うが、休業したほうがよいのか、仕事をつづけながら治療が必要かどうかなど、医学的な立場から診断がほしいと考える場合で、合理的な要件がそろっていれば、上司や人事部は社員に医師を特定して受診を命令できると考えられます。

過去の例として、電電公社帯広電報電話局事件(最一小判 昭61.3.13)では、「労働者に対し就業規則たる健康管理規程に基づき、精密検診を受診させ、病院ないし担当医師を指定し、検診実施の時期を指示する業務命令は、その内容・方法に合理性、相当性が認められる限り、労働者の診療を受ける自由および医師選択の自由を侵害することにはならない。」とした例があります。
もともと個人には、診療を受けるかどうかや、どの医師の受診を受けるかという選択の自由があります。一方で企業は、労働契約に伴い、社員の生命、身体の安全に配慮しなければなりません(労働契約法5条)。

こうしたことを考え合わせると、受診命令の必要であると認められる状況にあって、合理的な内容が定められた就業規則や健康管理規程等に沿って、企業が指定した医師の受診命令が出すことは妥当な判断になることが多いと思います。
ただし、前掲の判決は、受診命令が労働者の健康の早期回復を目的にして出されていること等の内容と方法に合理性と相当性が認められることを要件にしていることに注意が必要です。


2.受診内容を主治医から聞き取りをしたいとき

受診したのち、社員から診断書が出てきた場合で、診断書だけでは情報が不足している場合や、企業が主治医に診断結果を聞いて、その後の労務管理も配慮が必要であると考えた場合は、対象になっている社員の同意を得たうえで、産業医を通して主治医に診断内容の情報提供を申し出ることが必要です。


3.受診命令に応じない社員の家族に報告することについて

合理的な受診命令であっても、社員が受診を拒否すること想定されますし、これまで私が相談を受けたケースの中にも事例がありました。
社員の勤務状況から見て、早急に受診が望まれる場合や、社員から自殺をほのめかすような言動があった場合は、家族に連絡を取って受診を勧めることが望ましいと思います。ただし、家族に自分の健康状態を知られたくないと考えていることがありますから、家族に健康状態を話してよいかどうか、対象の社員に同意を取ることが必要です。
同意をとったとしても、個人情報保護の面から、社員の健康情報を家族に提供することを就業規則等の個人情報の利用目的に記載しておくことも必要です。

ただし、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」(個人情報保護法23条1項16条3項)に該当する場合は、本人の同意がなくても家族に健康情報を提供することができます。社員に自殺などのおそれがあると認められる場合は、迷わずに連絡をとり、家族からも受診を勧めてもらうことができます。

 

 

【コンサルタントプロフィール】

写真_大関ひろ美 大関ひろ美
株式会社ブレインパートナー 顧問
三重県四日市市出身。

ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)

 

DATE : 2017/06/12

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