【人材育成】組織内キャリアマネジメント(2)
かつて長期雇用や年功賃金を前提とした雇用関係が一般的だったころ、企業主導によるキャリアマネジメントが主流でした。 この背景には、働く個人は一様に雇用の保証と一定水準までの昇進によって動機づけられ、その引き換えに企業の方針に沿った配置や異動、能力開発を受け入れるという相互依存的なマネジメントのあり方があったと考えられます。 そのため、個人の特性やキャリア志向性を考慮した個別管理ではなく、組織目標の達成を第一義とした企業主導による一律的なキャリアマネジメントでした。
しかし、1990年代以降に生じたバブル崩壊やリーマンショックは企業組織のあり方に変革をもたらしました。ダウンサイジングや組織のフラット化の結果、それまでの長期雇用を前提としたキャリアマネジメントは機能不全に陥ったのです。従来型のキャリアマネジメントでは、環境の変化に十分に対応することができなかったのです。
一方で働く個人は、必ずしも長期雇用が保障されない状況においては、個人はエンプロイアビリティ(雇用されうる能力)を開発する機会を求めざるを得なくなりました。
シリコンバレーに代表されるように、この様な動きが日本よりも顕著であった米国では、バウンダリーレス・キャリアといった考え方も出てきています。
バウンダリーレス・キャリアとは、ひとつの組織の中だけでキャリアが展開される従来の組織キャリアに対して、1つの企業や職務といった境界(バウンダリー)に閉ざされた範囲を超えてキャリアが構築されるものと考えます。バウンダリーレス・キャリアを歩む個人は、異なる企業や業種の境界を横断しながら、新たなスキルや経験、ノウハウを獲得し、自律的に成長を重ねていきます。 いわゆる派遣社員や契約社員といったコンティンジェント・ワーカーの増加も、バウンダリーレス・キャリアを加速する一因となっています。
従来の日本企業においては、人材は囲い込みのできる「固定資産」であり、人件費も固定費的性格が強いものでした。しかしながら、低迷する国内景気や激化する国際競争といった環境の中で、日本企業は人材を「流動資産」ととらえるようになり、本当に必要なコア人材の獲得に注力しつつあります。このような状況下においては、企業に対して優れた貢献を提供できる人材は、自己の意思に基づいて労働市場を自由に移動するようになると考えられているのです。
同じくボストン大学ビジネススクールのホールは「プロティアン(変幻自在な)・キャッリア」という概念を提示しています。 移り変わる環境に対して、自らの欲求に応じて方向転換し、個人の「心理的成功」を目指すという考え方です。
これらの状況を背景として、新たに日本企業が取り入れていったキャリアマネジメントの原則は、組織が個人に絶対的な雇用の保証を行う事よりも、エンプロイアビリティを高める機会の提供を重視するという考え方です。 企業は従業員の雇用の確保を重視しつつも、従来の様に個人のキャリア形成を手動する立場から、個人のキャリア形成を支援する立場へと変化し、働く個人には自律的なキャリア形成が求められるようになってきました。
この考え方を取り入れた制度に、例えば社内公募制や社内FA制度、自己申告制度などがあります。 これまで企業主導で行われてきた昇進・昇格や異動・配置なども個人が選択できる機会が増えつつあります。 つい先日、ソニーがプロ野球に近い社内フリーエージェント(FA)制度を新たに導入したというニュースも流れましたね。
日本企業におけるキャリアマネジメントの大きなトレンドとしては、相互依存型から自立支援型に変化しつつあるという事でしょう。
【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2016/04/11