【人事管理】退職時の有給休暇「買い取り」はできる? 〜未消化分への対応と法的な位置づけ〜
従業員が退職する際、「有給休暇が残っているのですが、どうすればよいですか?」という相談を受けることがよくあります。今回は、退職時の有給休暇の取り扱いについて、基本的な考え方と注意点をご紹介します。
1. 有給休暇は「取得させる」ものが原則
労働基準法では、年次有給休暇は本来、在職中に労働者が休暇として取得することを前提としています。2019年の法改正により、事業主には年10日以上の有給休暇が付与される労働者には「年5日の取得をさせる義務」も課されました(労基法第39条第7項)。
つまり、事業主としては計画的な取得や業務調整を行い、従業員が在職中に有給休暇をしっかり取れるよう配慮することが第一です。
2. 退職時に消化できなかった有給休暇の扱い
とはいえ、退職までに日数が足りない、業務の都合で消化しきれないといったケースもあります。その場合、残っている有給休暇を金銭で支給することが可能です。
労働基準法上、未消化の有給休暇を退職時に買い上げることを禁止する規定はありません。そのため、労使で合意すれば、就業規則等に定めがなくても買い上げにより処理することができます。
ただし、有給休暇の買い取りは事業主の義務ではありません。原則は在職中に取得してもらうべきものです。退職日までにすべてを取得できない場合には、労働者と話し合いのうえ、取得や買い取りの方法についてすり合わせを行うことが大切です。トラブルを防ぐためにも、早めに退職日や残日数の確認を行いましょう。
3. 所得区分によって税務上の取り扱いが異なる
退職時に支払う未消化有給休暇相当の支給金については、「退職所得」として取り扱われる場合があります。
ただし、すべてが退職所得になるわけではなく、「退職に際して一時金として支払われること」など、一定の要件を満たす必要があります。
退職所得に該当すれば、「退職所得控除」が適用され、所得税・住民税が軽減される可能性があります。具体的な取り扱いや申告書の書き方については、税理士や専門家に確認するのが安心です。
4. まとめ:事前に方針を定めておくと安心
有給休暇の未消化問題は、労務管理上の悩みの種になりがちです。
退職時に慌てないためにも、
• 普段から有給休暇の計画的取得を促す
• 退職時に有給休暇が残っていたら、まずは取得を促す。
• 取得が困難な場合は、残日数に応じた賃金を支給することも考える。
• 給与として支給するときは、支給方法や名目を明確にし、給与明細にも記載する。
• 上記によらず、退職金として支給し退職所得控除を使うケースも考えられる。
【コンサルタントプロフィール】
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大関ひろ美 (株式会社ブレインパートナー 顧問) 三重県四日市市出身。 ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。 |
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DATE : 2025/07/24